事業概要
ご挨拶
筑波大学医学医療系
放射線健康リスク科学分野 教授
磯辺 智範
「放射線リスクをマルチスケールで判断できる人材養成プログラム」の推進に向けて
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故は、多くの被害をもたらすと同時に、一般市民の「放射線リスク」に対する理解不足を浮き彫りにしました。この理解不足により、福島原発事故以降、放射線による健康や環境への影響に対する誤解や偏見、食品の風評被害、放射線検査や放射線治療の拒否などの事例が多数発生しており、大きな社会問題となっています。「放射線リスク」と一括りにしても、DNAやヒト(個人)、社会、地球規模といった段階的なリスクが存在しており、放射線リスクを適切に理解・判断するためには、リスク全体を俯瞰的に捉えることが必要になります。また、放射線に対する偏見や不安を解消するためには、相手(個人、集団、社会)の立場に寄り添いながら、エビデンスに基づいて放射線リスクを説明することも重要です。放射線に対する社会問題の解決を目指す上で、放射線リスクをDNAレベル(ミクロ)→ ヒト(マクロ)→ 社会 → 地球規模(グローバル)へと波及していくリスクとして的確に判断できる力(放射線リスクスケール)とエビデンスに基づいて説明できる力(説明力スケール)を合わせた「マルチスケール」を有する人材の育成は重要な教育課題です。
放射線リスクをマルチスケールで判断できる人材養成プログラム (SCALES) は、この問題を解決するためのプログラムとして、令和6年度「原子力規制人材育成事業」に採択されました。原子力規制委員会をはじめとする関係各所の補助・協力を受けながら、放射線に関する諸問題に対して「マルチスケール」で対応・活躍できるリスクコミュニケーターを養成することを目標にしております。本プログラムは、放射線リスクに関する専門性を養う「ベーシックプログラム」と放射線リスクを正しく説明・情報発信するためのスキルを養う「リスクコミュニケーター養成プログラム」の2つの柱から成り立っています。単に放射線に関する専門的知識を学習するだけではなく、心理学に関する講義やフィールドワーク、プレゼンテーションスキルを身につけるための演習などを取り入れていることが本プログラムの特色であり、リスクコミュニケーターとして求められる力を包括的に学ぶことができるオールインワンの教育プログラムの構築を目指しております。
リスクコミュニケーター育成プログラムの先駆けとして、今後のモデルとなるよう努力いたします。みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。
原子力規制人材育成事業について
福島第一原発事故を経験し、健康や環境への影響に対する誤解や偏見、食品の風評被害など、一般市民が持つ放射線・放射能に対する理解不足が浮き彫りとなりました。
原子力規制人材育成事業は、こういった問題に対応するため、リスクの相場観を持ち合わせ、放射線を含めたリスク全体を俯瞰的にとらえることができ、個人・集団・社会の不安と疑問に寄り添いながらエビデンスに基づいて放射線のリスクを判断・説明できる人材を養成するプログラムを構築し、運用することを目的としています。本事業により、リスクを判断する力「放射線リスクスケール」、リスクを説明する力「説明力スケール」、この2つを合わせた「マルチスケール」を持ち、放射線に対する理解不足から生じている社会全体の放射線に対する偏見や不安の解消を加速させることができるリスクコミュニケーターとして、原子力に関連する諸問題に対応・活躍する人材を育成します。

